2006-12-16

【天声人語】2006年12月16日

asahi.com :朝日新聞今日の朝刊-天声人語: "【天声人語】2006年12月16日(土曜日)付

フランスの作家で啓蒙(けいもう)思想家のルソーは、著書『エミール』で理想的な教育のあり方を熱っぽく語った。自然を偉大な教師とし、子どもの本性を尊重することを説く。

 そして最もよく教育された者とは、人生のよいこと悪いことに最もよく耐えられる者だと述べる。「だからほんとうの教育とは、教訓をあたえることではなく、訓練させることにある」(岩波文庫・今野一雄訳)。

 従って、教える側に対しては厳しい。「一人の人間をつくることをあえてくわだてる には、その人自身が人間として完成していなければならない」という。これでは、資格のある人はまず居ないのではないかと考えてしまう。しかし、教育の根本 を、それほどまでに厳粛なものととらえていた姿勢は、胸を打つ。

 教育基本法の改正を巡る国会の動きを見ていると、残念ながら、教育の根本を扱っているのだという厳粛さが伝わってこない。審議の質は、これまでにかけた時間だけでは測れないはずだ。

 ましてや、この改正と密接に関係する政府主催の教育改革のタウンミーティングには「世論誘導」が指摘され、そのあきれた実態が明らかになったばかりだ。首相や文部科学相が報酬を返納し、文科省の幹部職員ら多数が処分されたことを軽く見過ぎてはいないか。

 処分が出たからといって、あの「世論誘導」の集まりそのものが消滅したわけでもない。教育の現場や子どもたちに、国会の動きはどう映っただろうか。子どもたちや、そのまた子どもたちの未来にかかわる法案にふさわしくない、性急な採決だった。

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注釈:
ルソー:〔Jean-Jacques R.〕フランスの作家・啓蒙思想家。ジュネーヴ生れ。「人間不平等起源論」「社会契約論」などで民主主義理論を唱えて大革命の先駆をなすとともに、「新エロイーズ」などで情熱の解放を謳ってロマン主義の父と呼ばれ、また「エミール」で自由主義教育を説き、「告白」では赤裸々に自己を語った。(1712~1778)
   (中国語) 
卢梭(1712-1778),法国启蒙思想家。他的《爱弥儿》是构思20年和撰写3年于1762年出版的不朽之作。卢梭在《爱弥儿》一书中指出旧教育的失败,同时,积极地提出了建设新教育的系统的方案。《爱弥儿》一书分为五卷,其主线索是回归自然,发展天性。
『エミール』:《爱弥儿》

本性:生まれながらの性質。本来の性質。ほんせい。「─を現す」 ほん‐しょう【本性】

教訓:きょうくん【教訓】ケウクン[0]教えさとすこと。また、その言葉や内容。「─を垂れる」「失敗がよい─となった」

あえて:あえ‐て【▽敢えて】アヘ─(副)
 1、《下に意図性をもった動詞句を伴って》困難な状況や心理的抵抗をおして物事を行うさま。そうする(または、そうしない)だけの価値があるものとして言う。しいて。「君のために─言おう」「評価は高いが、─苦言を呈する」「将来を慮り、責任は─追及しない」
 2、《主に不必要の意を表す表現を伴って》とりたてて~する必要や価値がない。別に。特別に。ことさらに。「─泣くことはない」「─断るまでもない」
 3、《下に打ち消しを伴って》全く。少しも。また、必ずしも。「壊滅と言うも─誇張ではない」◇古い言い方。

くわだてる:くわ‐だ・てる【企てる】クハ─(他下一)
  あることをしようと計画する。また、それを実行しようとする。もくろむ。企図きとする。「金もうけ[悪事]を─」◇「くわたつ(=つまさき立って伸び上がる意)」から出た語。

胸を打つ:感嘆する。感動させられる。心を打つ。「勇気ある行為が人々の─・った」

改正:かい‐せい。改めて正しくすること。

ましてや:
 まして-や [1] 【況してや】 (副)「況して{(1)}」を強めた言い方。
 まし-て [1] 【況して】 (副)〔「増して」の意〕
(1)二つ事例を並べあげて,前述の場合でさえこうなのだから,後述の場合はもちろん,の意で使う。なおさら。いうまでもなく。「他人でさえ興奮するのだから,―本人はどんなだったろう」
(2)なおいっそう。さらに。「瓜食(ハ)めば子ども思ほゆ栗食めば―偲(シヌ)はゆ/万葉 802」

タウンミーティング:[town meeting](名)政治家・行政官などが国民と政策についての意見を交換する対話集会。一般市民と政治家の非公式な討論会。アメリカのクリントン大統領が展開している,国民や企業関係者などとの対話作戦.

報酬を返納する:
 報酬:ほう‐しゅう 労力・尽力または物の使用の対価として給付される金品。「─を支払う」
 返納する:へん‐のう もとの場所・所有者に返して納めること。「奨学金を─する」

性急な採決:
 性急:せい‐きゅう あわただしく先を急ぐこと。気が短くて、せっかちなこと。「─に事を運ぶ」
 さいけつ【採決】[0][1]  ―する 議案の採否を、賛成意見の多少によって決めること。決をとること。