2006-12-16

【天声人語】2006年12月10日(日曜日)付

【天声人語】2006年12月10日(日曜日)付 ここから広告です 広告終わり

 「手のひら」が先行したが、「指」が追いつき、現在勢力は均衡中。今後は指がやや有利か。銀行の現金自動出入機(ATM)に普及し始めた「生体認証システム」の現状は、こんな感じだ。

 キャッシュカードのICチップに、手のひらや指先の静脈の形状を登録しておく。現金を引き出す際、その情報を使って本人確認をするシステムだ。ATMに手のひらをかざす方式と、指を載せる方式がある。

 数年前からATMにカメラを仕掛けて暗証番号を盗撮したり、カードの磁気情報を盗 んで偽造カードをつくったりする事件が相次いだ。対策の決め手といわれたのが生体認証だった。先行したのは現在の三菱東京UFJで、04年10月に実用化 した。個人の識別には静脈以外にも、指紋や目の虹彩(こうさい)の形などいくつかの方法がある。約千人の客にアンケートをしたところ、手のひらを推す声が 多かったという。

 しかしその後、他の大手銀行が相次いで指方式を選び、郵政公社も続いた。中小の銀行では手のひらを選ぶところもあり、銀行数ではほぼ互角だ。

 今のところ両方式の互換性はない。当初ベータとVHSに分かれたビデオレコーダーでは、結局ベータが消えた。統一規格を目指す動きはあるが、生体認証もどちらかが消えていくのか。

 両陣営ともこれまでは間違えて違う人に支払ってしまったことはないという。犯罪対策に万全はない。犯罪者の側も工夫を重ねるからだ。生体認証は世界的にも日本が進んでいる分野だといわれる。利用客の安心のため、より優れた方法を追求してほしい。